Non-Governmental Organization Energy and Ecology Vision for Sustainable Society
What's New?
220兆円の政府支出の「財源」をめぐる、ステファニー・ケルトン教授のツイッター・スレッド(2020年3月23日)
翻訳:長谷川羽衣子(2020年3月27日)
民主党は予備選挙の議論で、「財源[1](pay for)」とは何を意味するのかを人々に説明する、大きな機会を逃した。そして連邦議会が2兆ドル(220兆円)以上を「財源」なしで支出しようとしている今こそ[2]、私たちは財源が意味することについて話しをしなければならない。
第一に、連邦議会の支出の「財源」とはどういう意味なのか? 私は上院で働いていたが、このフレーズは予算の世界では具体的な意味を持っている。議員が法案を起草する際、スタッフはしばしば他の議員たちに案を提示して支持を得ようとする。
そのさい必ずスタッフが受ける最初の質問は「財源は?」である。だから、例えば1兆ドルのインフラ建設法案であれば、どうやって赤字を増やさずにその支出を完全に相殺する計画なのかを、議員たちは知りたがる。これが「財源」の意味するところなのだ。
これは通常、増税を伴う。十分な新しい「収入源」を示せたら、支出案の「財源」となる「資金源」を見つけたと主張することができる。これがペイゴー(PAYGO=Pay As You Go、財源の範囲内で支出すること)の背景にある考えだ。赤字を増やすなということなのだ。
議会が完全に「財源を確保した」支出法案を可決すると、連邦準備(中央銀行)に2組の指示を出す。ひとつめは(支出が行われる時に)FRBに対して特定の預金口座に「プラス」せよとの指示である(これについては別の箇所で詳しく説明している)。
もうひとつは(人々や企業が税金を払う時に)、FRBに他の特定の預金口座を「マイナス」するよう、指示することである。結局のところ、ペイゴー(PAYGO)は政府が支出によって「プラス」したのと全く同じ金額を、税によって「マイナス」することを意味する。
私たちは、これが「責任ある財政」だと誤解させられている。政治家は自分が優先的に行いたい政策の「財源」を示すことによって「真面目」だとみなされる。「帳尻が合う」ことによって、その計画は「信頼できる」とみなされる。ばからしい!
動画でオカシオ=コルテスが述べているように、連邦議会は「いつだって」、FRBにたったひとつの指示を出す法律を制定する権限がある。それが、まさにいま、行われていることだ。アメリカを襲っている経済的打撃を和らげるための、2兆ドル(220兆円)の支出パッケージについて、誰も「財源」を求めようとはしていないのだ。
今、その支出を相殺しようとするのは、狂気の沙汰だ。なぜか? 私たちの経済は支出によって回っているが、まさに今、その支出が崩壊しつつあるからだ。私たちはFRBが今すぐに、預金口座に「プラス」することを、そしてそれ以上の金額を「マイナス」するようなことがないことを望む。
平時でも、支出を収入で相殺せずとも、やれることは多い。例えば、サンダース上院議員は、810億ドル(約9兆円)の医療債務を帳消しにすることを提案した。これは、相殺なしで簡単に実行可能だ。医療債務を帳消しにすることで、人々はその分のお金を他の用途に使うことができる。
このことは、消費支出を(他の返済や貯蓄とともに)押し上げるであろうが、米国経済は増えた分の消費支出に容易に対処できる。インフレを加速させるリスクがなければ、相殺も必要ないということだ。
もうひとつの例を挙げよう。私を含む何名かの経済学者は学生ローンを帳消しにするという提案について、モデル分析を行った。マクロ経済的な効果を調べたところ、「財源を求める」ことに経済的な意味はないことが分かった(www.levyinstitute.org/pubs/rpr_2_6.pdf)。
しかし、それがいつも当てはまるわけではない。一部の支出案は非常に金額が大きいため、相殺(つまり「財源調達」)を必要とする。これらの案は、確かにインフレにつながる。需要の増加という観点から見ると、相殺が必要となるまで、経済はどのくらいの金額なら対応可能なのだろうか。
実際には、ほとんどの場合、経済には十分な余裕があり、相殺なしで連邦支出の拡大(または減税)を行うことができる。これを「財政スペース」としよう。民主党の大統領候補が提案していたことの「一部」を行うには、十分な財政的余裕があったのだ。
しかし我々(民主党の支持者)はそれを認めなかった。代わりに、全てに「財源」が必要だと考えたのだ。取りやすい場所に果実は実らないと考えたのだ。1兆ドルの赤字(または数兆ドルの財政債務)に直面していたため、限界だと考えたのだ。
いま、何が起きているかを見て、そこから学んでほしい。そして、私たちがこの危機を乗り越えた時、通貨発行権を有する政府の支出能力について、新たな理解を得よう。それが必要だ。
<訳文及び原文はこちらからDLして頂けます>
グリーン・ニューディールの財源に関する
バルファキス(DiEM25)とギーゴルト(独緑の党)の論争
書き出し/翻訳 朴勝俊 2019.12.05
欧州議会選挙を目前に控えた2019年4月末、Europe Battleと題されたディーべートの場で、欧州民主主義連合(DiEM25)を率いる、元ギリシャ財務大臣のヤニス・バルファキスと、ドイツ緑の党のスベン・ギーゴルトが討論を行った。両党ともにグリーン・ニューディールを中心的な政策として掲げているが、財源調達の考え方に大きな違いがある。以下は、その興味深い討論の一幕である。欧州投資銀行の債券を活用して300兆円規模の民間資金を動員するという、バルファキス流の財源調達の考え方は、気候変動を巡る「公正な移行」や「エネルギーシフト」を唱道する人々にとって、必須の知識となろう。
両者の討論は、動画で見ることができるほか、要約された記事が利用可能である。
司会者:…お互いの違いを明らかにしていただけますか?
ギーゴルト:彼の言うグリーン・ニューディールと、私の言うグリーン・ニューディールは、資金調達の方法が違います。
バルファキス:そうです。
ギーゴルト:彼のアイデアは、欧州投資銀行(EIB)の債券を欧州中央銀行(ECB)が買い入れるというものです。ドイツでは…
バルファキス:…多分私が説明したほうがいいでしょう、あなたは批判を述べているから…
ギーゴルト:…説明させてもらうと…
バルファキス:…私の政策をあなたが説明するんなら、私の仕事がなくなるじゃないですか(会場笑い)
ギーゴルト:あなたも説明すればいいです。あとでひっくり返してください。まず私が言いたいのは、ドイツでの公の議論では、たとえ私が公共財の資金調達のためにECBを活用することに賛成できたとしても、それはドイツの議論では、有害な議論だということです。そんなことをすれば「ドイツのための選択肢(極右政党AfD)」が小さくなるどころか、大きくなってしまいます。だからこそドイツ緑の党やヨーロッパ緑の党は、租税引き下げ競争をやめさせて、共通の企業課税によって、グリーン・ニューディールの財源をまかなおうとしているのです。…アンフェアだったかな、ヤニス。
バルファキス:うーん、不十分だった。
ギーゴルト:ははは。
バルファキス:私たちが言っているのは、まずは、グリーンな変革を実行するのに必要な、最低限の財源規模をはっきりさせるべきだということです。グリーンな変革に、いったいどれだけのおカネが必要なのか。どれくらいか。ご存じの「未来のための金曜日(Fridays for the
Future)」の若者たちが、大人たちの子どもじみたふるまいを見て、大きくなったときに私たちに指を指して、あんたたちは十分なことをやらなかった、と言うでしょう。そのとおりです。では、十分とはどれくらいでしょうか。最低ラインはユーロ圏のGDPの5%、毎年5000億ユーロ(約60兆円)です。それはエネルギー、交通、工業、農業でグリーン変革を実現するために、最低限の金額です。そのおカネはどこから来るのでしょうか。課税からおカネが来ますか? 租税の調和とかは、もちろん完全に意見は一致してますよ、やるべきことです。でも、3年、4年、5年の間それに取り組んで、あなたがそれを実現できた時に、どれぐらいの資金が得られるかと言えば、3年、4年、5年かけて、最大でも500億ユーロ(約6兆円)ぐらいです。まったく不十分です。租税の調和が実現して、税金を集めるまでに時間がかかります…。
ギーゴルト:いや、ちがいます…
バルファキス:最後までしゃべらせて下さい。私たちが言っているのは、いまこうしている間にも、欧州連合の金融サーキットには2.5兆ユーロから3兆ユーロ(300兆円から360兆円)ものおカネが存在しています。このおカネは悪さしかしていません。ベルリンやハンブルクの住宅価格をつり上げています。それに株価をつり上げています、なぜなら企業がそのおカネを借りて自社株を買い戻すからです。生産的なこと、環境にいいことは何もしていません。私たちの提案は、私たちみんなの欧州投資銀行に、毎年5000億ユーロ(約60兆円)債券を発行させ、欧州中央銀行に、あるアナウンスメントをさせることです。それは、すでにやられていることで、新しいアイデアではありません。欧州中央銀行は、債券の価格を支える必要があるときには、買い上げる用意があると言うだけいいのです。そのアナウンスメントさえすれば、買う必要はなくなります。そうすればたちまち5000億ユーロ(約60兆円)のお金が、グリーンエネルギー共同体のために使えるようになり、ドイツなども褐炭への依存をやめられます。一瞬にして巨額の資金が利用可能になります。ドイツでも、ギリシャでも、ポルトガルでも、明日から、環境や良質の仕事のために、おカネを投じることができるようになるのです。条約のルールの範囲内で、です。これが私たちのグリーン・ニューディールです。
ギーゴルト:はい…。問題はですね、私はあなたのプログラムを読んだあと、当然ながら、革新派の弁護士たちに質問しました。この人の言っていることは条約に抵触しませんかと…
バルファキス:しませんよ…
ギーゴルト:…革新派の弁護士の意見は、政治家や政府が欧州中央銀行に対して、立法手続きによってか、あるいは選挙キャンペーンの中でか、5年間にわたって債券買い上げプログラムを約束しろ、宣言しろと迫れば、これは違法だ、ヨーロッパ法違反とみなされる、ということでした。私たちに必要なのは、グリーン変革を引き起こすような経済プログラムです。新たな財源調達プログラムは必要ありません。市場には巨額のおカネがあります。必要なのは、環境を破壊することが損になり、グリーン投資がトクになるような政策の方です。
バルファキス:私たちが出した提案は…、完璧に合法です。なんでそう言えるのか説明しましょう。弁護士に聞いたわけではありません。2015年、私は欧州投資銀行の理事でした。同じ提案を理事会に提出しましたよ。そのとき、違法だと言う理事は1人もいなかったのです。実際には、ヴェルナー・ホイヤー総裁はすごく気に入ってくれました。でも、欧州投資銀行だけではできません。欧州連合の理事会の青信号が必要です。ところで、あなたが言っていることも全く正しい。欧州中央銀行に対して、債券を買えという正式な指令を出せば、欧州中央銀行の独立性の「建前」を破ることになります。でも、私が言いたいのは、欧州中央銀行はすでに債券を買っているということです。そして、マリオ・ドラギさんやブノワ・クーレさん、そして他のみんなも、欧州投資銀行の債券をもっと買いたいと思っています。彼らが1月前に何をやったか見てください。良質のグリーン債券がないから、クズ債券にカネをつぎ込んだのです。マクドナルド債とか、フォルクスワーゲン・ディーゼル債ですよ。グリーン債ではない。グリーン債があれば買いたいのです。でもないのです。
司会者:ありがとうございます、これで違いがよく分かりましたね。では皆さん、投票してください。…結果は、ギーゴルトさんが46%、バルファキスさんが54%でした。バルファキスさんに拍手。
<ヤニス・バルファキスVSスベン・ギーゴルト グリーン・ニューディールの財源に関する討論>
動画(7分) 動画(23分)
<ヤニス・バルファキスとスベン・ギーゴルト討論の要約記事(英語)>
https://diem25.org/who-to-trust-more-greens-or-diem25-on-climate/
「気候変動に対する戦争よりも階級闘争を」
トム・ヴォールファルト著/朴勝俊翻訳 2019.10.23
―― 気候変動をめぐる議論では、状況の深刻さを強調するために終末論的なシナリオがしばしば使われ、消費の制限が求められます。これは、気候変動防止のために社会正義を犠牲にしてしまう危険性 があります ―― 本文より抜粋
【解説】
現在、欧米では反緊縮的な政策を基礎とした「グリーン・ニューディール」(以下GND)によって連携し、世界にこの政策と運動を広げようという動きがあります。その中心のひとりが、若手議員や活動家と共に「GND」導入運動を展開するアメリカ民主党の新星、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス議員です。そして欧州でこの運動の先頭に立つのが、反緊縮政策を掲げて緊縮を迫るEUに立ち向かい、辞任に追い込まれたギリシャ元財務相で経済学者のヤニス・バルファキス氏です。他方、GNDとは別に、アメリカで今年1月、「炭素税ベーシック・インカム導入を求める声明」が、ノーベル賞経済学者や連邦準備制度理事会の議長を多数含む3000人以上の経済学者の賛同を得て公表されました。賛同者・内容ともに非常に画期的な声明です。
気候変動の影響が深刻さを増す中、気候変動対策と経済政策を統合的に考え、なおかつ弱者を犠牲にしない政策が不可欠となっています。本稿はそのような政策を考える上で必要な視点を提供してくれます。(長谷川羽衣子)
Tom Wohlfarth “Klassenkampf statt Klimakrieg“, der Freitag, Das Meinungsmedium, 2019.9.3
https://www.freitag.de/autoren/tom-wohlfarth/klassenkampf-statt-klimakrieg
Originally published on demokratiEvolution
炭素配当に関する米国経済学者らの声明
-米国経済学者らによる史上最大の公式声明―
2019年1月17日、セン、カーネマン、ルーカスら27名のノーベル経済学賞受賞者と、グリーンスパン、イェレン、バーナンキら元連邦準備制度理事会議長4名全員を含む、3419名のアメリカ経済学者たちが賛同する「炭素配当に関する米国経済学者らの声明」が公表されました。
気候変動を解決する手段としての炭素税の導入と、その税収をベーシックインカム(炭素配当)として国民全員に還付することを訴えた、非常に画期的な内容です。
日本語訳したものを掲載しますので、ご自由にご活用下さい。
英語原文
声明公式HP https://www.clcouncil.org/economists-statement/
遠藤典子氏『原子力損害賠償制度の研究』の欠陥
電力会社を「有限責任」とすることは、福島事故の悲劇を経験した日本にとってはあり得ない選択である。その「有限責任」を強く主張している遠藤典子氏(原子力委員会・原子力損害賠償制度専門部会委員)の主著は研究書として重大な欠陥があり、委員としての資質に疑問を持たざるを得ない。そのことを指摘したのが本稿である。(朴勝俊・大島堅一)
About Us
【NGO e-みらい構想とは?】
NGO e-みらい構想は、持続可能な環境・経済政策の研究と紹介、実現に取り組むため、研究者と市民によって結成された団体です。現在は特に、エネルギー政策、気候変動対策、そして環境経済政策について市民と共に考え、学び、広める活動を行っています。